筆者が、鉄山の縫製工場に駐在していた公元2000年頃、戦争が終わって半世紀経っていても、鉄山村には日本軍の将侯や鉄関係の技術者が住んだという煉瓦建てのアパートが残っていて、中国人が生活をしていた。


恋の始まり
  「湖北の西施」女史は、筆者が駐在指導をしていた縫製工場に在る三つのフロア工場の一つのフロア長として筆者の面前に現れた。彼女に一目惚れした事は前に記した。一目惚れした筆者は彼女の職場に用事も無いのに頻繁に行く。当然、縫製職工さん方は変に思った事で在ろう。しかし、彼女を思慕する筆者には他人の非難の目や軽蔑、好奇心の眼は通じ無かった。噂は忽ち、工場内に広がった。
  斯かる頃、鉄山では夜な夜なダンスパーテイが催されていた。独り棲まいの夜の無聊を、彼女の部下の班長や職工さん等がダンスパーテイを開いて招待して呉れた。晩酌でほろ酔い加減の筆者は、「ひょっとしたら湖北の西施に会えるかも???」と淡い期待を抱いてパーテイに出掛けた。出会った彼女と下手なダンス否、只抱き合って足を動かすだけで在るが、取り敢えず彼女を抱く事が出来た。斯かる瞬間、彼女の部下達の班長さんや職工長の悪戯か?ダンスパーテイでの予期せぬ出来事が、彼女に対する筆者の慕情を実らせる機会が訪れた。  班長さんや職工長さん等が勧める儘に、彼女と抱き合ってチークダンスを踊っていた時突然、灯が消えて暗転、真っ暗闇で彼女を抱いていた。停電か?或いは、故意為る悪戯か????斯れ幸いと彼女の耳元に呟く、「我愛爾!喜歓爾!要爾!(貴女が好きだ!欲しい!欲しい!貴女の心が欲しい!)」と。彼女は、筆者の肩に置いた手を背に回して「爾壊!(悪い人!)・・・」と呟き返す。
  ヴィーナスの子、キューピッドが放った愛の矢が二人を射貫いたかも知れない??彼女に対する恋慕の情は益々、激しく青春否、老いの炎を燃え立たせた。彼女の、筆者を見る目が変わって来た。キューピッドに感謝せねば・・・。
  中国一番のファッション街とされる上海の南京東路を闊歩する美女振りは、正に西施が二千五百年の時を経て現代に舞い降りたと言っても過言で無い。街を行く美女達の内でも彼女は際立つので在る。
  筆者は、様々な理由を見付けては中国に行く。湖北の西施との逢瀬を愉しみ、互いの愛を交換する為で在る。国際的な遠距離恋愛と言い得無いで在ろうか??二人の恋は春秋時代、西子への恋故に国家を滅ぼした呉王夫差の恋愛故事に比べても決して劣るもので無いと。只惜しむらくは、筆者は古希を遙かに過ぎた老人で、一方の西施は四十代の女盛りの美麗女史で在る事。許されざる恋で在ろうか????エロ爺いの卑猥な恋????

小さな村に迄、残されていた日本の中国侵略の歴史
  筆者が彼女に一目惚れしたのは、某日中合弁企業の縫製工場の経営指導と生産管理の指導の職を得て、日本の服飾会社の現地派遣契約社員の一員として駐在した事に始まる。十五年前後の昔の事で在る。此の縫製工場は武漢郊外の鉄山という鉄鉱石を掘出する小さな村に在って筆者が棲んだ頃にも露天掘りが行われていた。

  武漢近郊は鉄鉱石が産出する地で在る。先にも述べたが鉄山という地名からも此の点は明らかで在る。資源に乏しい日本は、中国に資源を求めて侵略の軍靴を進めた。つまり、食糧を求めた東北地方(旧満州)に満州国という傀儡政権を建設させ、石炭を求めて華北方面へ、鉄を求めて長江を遡って湖北地方に侵略の矛先を向け、大陸侵略の作戦を開始するので在る。此に対して米英等の大国は石油禁輸という処置で対抗し、窮鼠猫を噛む如く日本は絶望的な第二次世界を起こすのである。つまり、第二次世界大戦が始まる以前から日本軍は中国に侵略を行っていた。否、中国侵略が第二次世界大戦、太平洋を挟んで日本と米国が戦った太平洋戦争を引き起こしたので在る。
  自国が産出した資源が、自国を侵略する兵器として使用された中国こそ悲劇の主役である。反日運動どころか、人々が反日抗戦を起こすのは当たり前の事である。此の中国人の抵抗に対して日本軍は南京大虐殺に見る徹底した押さえ込み作戦を中国全土に展開するのである。ちょっと、余談をお許し頂きたい・・・。

  鉄山の近く、顎州という地に駐屯した部隊の二等兵であった筆者の父親が、「何かと言うと"此の馬鹿野郎”と言うて殴るんや!」と筆者に喋っていたが、南京大虐殺に似た弾圧が中国各地で現地の人々に行われた事を証明する。父は上官から中国人を「殴れ」と命ぜられた時、「彼は何もしていないのに何故、殴るんですか?」と訊ねて上官に殴り飛ばされたとも語っていた。筆者が湖北に赴任する旨を報告した時の父親の話で在る。此れを裏付ける様に、中国人留学生から貰ったアドバイスは「中国人は誰にも腹の底に、反日感情を抱いている」と。更に、「馬鹿や馬鹿野郎は禁句ですよ」と言っていた。
再来した西施と出遭い、途端に一目惚れ

  中国湖北省武漢の近郊に黄石市が在る。鉄鉱石の積み出し港として長江に面する港街で在る。黄石に筆者は、一人の美人大姐(既婚のお姐さん)を愛人に持つ。「湖北の西施」と仮称しておく。「湖北の西施」女史は出遭って早や、十五年前後に為るが筆者が未だに恋い焦がれ、忘れ得ない唯一の恋人で在る。
  筆者は美女に惚れっぽく、飽きっぽい。物事を時間の経過以上に早く忘れ去る性格を持つ。筆者が持つ長所で在ると言える。物事に拘りが無いので在る。其の性格故に、老いた今も貧乏で蓄えも無く、借金だけを残して安閑と毎日を過ごせるので在る。物事を悩むという事が無いので在る。此の執着心の無さが、惚れっぽく飽きっぽい、悩みも直ぐに忘れて仕舞う筆者の性格の根源で在る。
  一緒に暮らす女房殿にとってみれば我慢出来ない性格で在ろう。彼女に言わせると、筆者の一つの事に集中出来ない性格は血液型つまり、AB型の為せる業で在ると云う。何故、AB型の血液を持つ者が集中できないのか?判らないし、黄石の恋人の話が何故、血液型に発展するのか?判らない。しかし、湖北の西施殿に対する我が思慕の念は長い間、変わらない。物事に集中できない事と恋の問題は別もので、血液型の問題でも無さそうで在る。
  湖北の西施との出会いは彼れ此れ、十五年にも為るが、筆者の彼女に対する恋愛感情は今も、続いている。老いの一徹??とも一概に言えない深い思慕の念で在る。惚れっぽく、飽きっぽい筆者には珍しい事で在る。
  彼女は、筆者好みのすらりとした細身の背の高い美女で在る。真っ直ぐ伸びた長い脚、お尻位置の高い百七十厘の姿態、背を真っ直ぐに伸ばし、膝を曲げずに歩む姿・・・・。、
「平成遣唐使唐土の恋」巻2
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  斯くした或る宵の事、彼女が筆者の宿泊しているホテルの部屋の前に立って居た。筆者の老いの慕情が実際のものに為った瞬間で在る。暫く、向かい合って閑談否、彼女の美女振りを誉めていたがやがて、此の場面は「愛慕を本物のものにしなければ男じゃ無い」と、彼女を我がものにしたい想いに身を委ねる事にした。いきなり、彼女を抱きしめた。「愛爾!要爾!要爾!・・・(好きや!欲しい!欲しい!君が欲しい)」と耳元に呟いて唇を求める。彼女の腕が筆者の肩から背に回って力が入り始めた。お互いの舌を絡ませながら、抱き締めつつベッドルームへ・・・。斯うして二人は結ばれ、片想いが互いの愛に為って、互いの恋が成就したのである。
  此の日以後、彼女は御夫君の目を盗んでは頻繁に、筆者の部屋にやって来、二人は激しく抱き合って互いの愛慕と幸せを確認する一刻を過ごしたので在る。此の一刻は、国家の壁や民族の違い、語る言葉の障壁は二人に何の邪魔も及ぼさなかった。二人は何も彼も忘れて愛に溺れた。正に、キューピッドの愛に矢に射られた女と男が、愛と美の女神ヴィーナスが催す「ヴィーナスの饗宴、愛の狂艶」に身と心を溺れさせていた。周りの目や耳に気付かなく為る迄に為っていたので在る。
  私等の恋は、久米の仙人と洗濯女の愛の故事にも似ている。つまり、洗濯女のチラリと見えた太腿に妄想を起こして、神通力を失って雲から墜落、天上界から地上に放逐された久米の仙人と情の深い洗濯女の恋愛を讃えた今昔物語の一節で在る。

  やがて、二人の恋愛は、筆者を派遣していた日本の服飾会社に知られる処に為り、筆者が此の縫製工場を去らねば為らない事態が二人を襲う事に為る。筆者は中国の一片隅の村で湖北の西施に巡り遇って恋に堕ち、遂には派遣会社によって二人の仲が裂かれ、中国からも放逐される事に為る。だが・・・・。

  しかし、二人の愛は消滅させられる事は無かった。日本の俗説、「身体を重ねた男女は決して、別れる事は無い」の通り、此のスキャンダルが暴露された後も、筆者と湖北の西施、二人の恋愛劇は国境を越えて十五年経った今に至っても演じられている。

  さて、今年も中国に渡らねば為らない。女神西施と抱き合って二人の愛慕を確認する為に・・・・・。
「中国ふれあい街歩き」恋の巻其の一
「平成遣唐使の恋」の巻、其の一