日本人は自然との協調、”自然の中の一員としての人間”という生き方が好く似合うし、その様な生き方をして来たと云って好いと思う。
  自然と協調した生き方は、多くの動物達との恋やセックスが物語に述べられる。物語中の狐は或る時は、美女に化けて人を誑かし、人妻に化け、正体を見破られては臭いオシッコを振り掛けて逃げ出す・・・・・。

  築地塀の脇で小用を足している美女の女陰を見て色欲心を抱き、穴から顔を覗かせて市女傘の女を失神させ、通り掛かった男の剣で身を切り裂かれた大蛇。
  午睡する美僧に懸想し、色欲を満たさんと添い寝をした雌蛇は、食らい付いた僧侶の摩羅から放出された媱
{よう、精液}を呑み込んで死ぬ。
  桑の大木に登った女に蛇が欲情を抱き、交わったが解けず、医師によって救われ、蛇は殺される。しかし、此の少女は三年後に又、蛇と交わって遂には死んだという。蛇との交情に魅入られた女のお噺・・・・。

「屁放き爺さんエロ噺」巻一

小用を足す女の女陰に色欲する穴蛇

  神社のしめ縄は蛇の交尾を象徴したもので在るという。蛇に霊力やセックスを連想するのは、生命力の強さ?のたうつが如き交尾の激しさ?其の見形の故で在ろうか?? 様々な動物が、人間と繰り広げる愉快な悪戯、哀しい恋物語??が日本に語り伝えられる。

    
「蕪青に戯かって子を授かった男のお噺」

  
或る男が、東の国に役御用で下る途中、或る青蕪畑で急に下欲望が頭を擡げた。周りは鄙里で何も無い。其処で、ふっくらした真に柔らかそうな蕪の実を取り上げて、剣で割れ目を入れ、抱きしめて事に及んだ。此の蕪を食った百姓の十四五歳の娘は突然、子を孕んで眉目麗しい男子を産み落とした。百姓の父母は驚くやら、訝しがるやらしかし、娘は元より、奉公人達も”娘に男が近づいた事は無いし、娘もその様な事はとんと無い”と云う。眉目秀麗の可愛い子だったので、神様の贈り物??行く行くは跡取りにしようと百姓夫婦はその子を育てた。
  数年経って、東の国の勤めを終えた男は京の都に戻る途中、此の百姓の家の垣を通りがかって往事を思い出し、従者等に青蕪に悪戯をして交わった事を話した。其の話を聞いた娘の母親は、男の手を引っ張って家に帰り、子供に対面させた。顔立ちが似ており、男の子供と判明。娘も鄙には似付かわしく無い優雅な雰囲気を漂わせる。男は京に帰っても父母は元より、親戚も無かったので結局、この百姓家に入り婿をしたと云う。この話は「今昔物語」に載る話であるが、青蕪とまで交わるとは・・・・・驚き入った事で在る??と物語は締めくくる。


    
「葛の葉狐のお噺」

  話は代わる。「泉州は信太の生まれ・・・」と云えば、半世紀以上も昔に一世を風靡したテレビ番組「てなもんや三度笠」の藤田まこと演ずるあんかけの時次郎と白木みのるの珍念さんの珍道中を思い出すが・・・・・。此処、信太の森」は昔から狐が沢山棲み着いていて熊野詣での旅人を騙したり、悪戯をしたと云う。大阪の旦那衆の芸者遊びにも”「狐狩り」という粋なお遊びが在った”は上方古典落語の一席で在る。大きな揚げの入ったきつねうどんを「しのだうどん」とも呼ぶ事が在る。
  平安末期から江戸時代にかけて「信太の森」は大阪、天王寺から紀州、熊野に通じる「小栗街道」沿いに在り、「信太の宿」は遊郭や遊び女、飯盛り女などで賑わったと云う。戦前は第八連隊の連隊司令部が置かれ、兵隊さん相手の赤線が賑わった。今も陸上自衛隊の信太山駐屯部隊の隣接地として夜の街は若者で賑わっているとか????余談はさて置いて・・・・・・・・。
  此の項「屁放き爺さんエロ噺」巻一の副題、ー恋しくば訪ね来てみよ 和泉為る信太の森のうらみ葛の葉ーに由来する美しい恋のお噺を一席・・・。

  冤罪を蒙って摂津国安部野に逼塞していた安倍保名は、信太の森で狩人に追われる一匹の白狐を助け、自身も大怪我を負う。其処に現れた美女、葛の葉の介護を受け、葛の葉と二世を契り、童子丸が誕生する。後の安倍晴明である。童子丸が五歳の時、葛の葉は正体が割れて、此の頁の副題の歌「恋しくば訪ね来てみよ 和泉為る信太の森のうらみ葛の葉」という歌を残して去る。保名と童子丸は信太の森に妻と母を訪ね、白玉と黄金の箱を贈られて後、童子丸は清明と改名して天文道を習得、讒奏して父保名を斬殺した蘆屋道満を、占い力比べで打ち負かし、父の仇討ちを遂げて天文博士と為り、陰陽師として今に、名を残すのである。
  此の物語は、元禄或いは享保年間に人形浄瑠璃に「蘆屋道満大内鑑」と云う題で戯作されて喝采を得た。歌舞伎でも享保年間に同題で演じられた。
  最近、此の物語は、”被差別部落出身の娘と一般民との結婚悲劇を、狐に仮託したもの”で在るとする解釈が唱えられているが、その様な安っぽい詮索など要らない美しい恋物語で在る。浄瑠璃本や歌舞伎本が語るその儘を鑑賞するべきで在ると、筆者は思う。つまり、「原本に還れ」と改めて叫びたいので在る。

「屁放き爺さんエロ噺」巻二
(eroessey2.html )へのリンク

”恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉”