「屁放き爺さん美女捜しのお噺」

其の二
一枝濃艷露凝香  一枝の濃艶 露香りを凝らす
雲雨巫山枉斷腸  雲雨巫山 枉げて断腸
借問漢宮誰得似  借問す漢宮誰か似るを得ん
可憐飛燕倚新粧  可憐の飛燕の新粧に倚ると

一枝の濃艶な牡丹の花に、露がしっとり芳香を凝結する
朝は雲暮れは雨と為る巫山の女神も断腸の思いであろう
(目前の女神は夢では無い)
さて、漢の成帝の後宮では誰が楊貴妃に比較出来ようか?
其れは、可憐な趙飛燕が美しく化粧をした姿くらいで在ろうか。

寝惚け旅、巻三の三

阿那曲(張雲容の舞に贈る) 楊玉環(楊貴妃)

羅袖動香香不已   羅袖香を動して香已まず
紅蕖裊裊秋煙裏   紅蕖裊々たり秋煙の裏
輕雲嶺上乍搖風   輕雲嶺上にあって乍ち風に搖らぎ
嫩柳池邊初拂水   嫩柳池の辺に初めて水を払う

舞に薄衣の袖が揺れ動き、衣裳に焚きしめた香が漂い已まず。
蓮の紅い花にも似たたおやかな舞は秋の靄に霞むが如し
雲は軽く嶺の上にさながら吹く風に揺らぐ如く。 
若葉する柳は池の辺に水を初沸する如く(侍女は舞う)。

”楊貴妃を讃える”李白の清平調詞

附、楊貴妃作・阿那曲”張雲容の舞を讃える”

其の三
名花傾國兩相歡  名花傾国ふたつながら相歓ぶ
常得君王帶笑看  常に得ぬ君王笑いを帯びて看るを
解釋春風無限恨  解釈せん春風無限の恨みを
沈香亭北倚闌干  沈香亭北闌干に倚る

名高い牡丹の花と傾国の美女が互いにその美を歓ぶ。
君王は何時も楽しげに微笑みを浮かべて看ておられる。
無限の恨みを解き解すかのように春風が吹き来る、
紫檀、黒檀で作られた沈香亭の北側の欄干に貴妃は身を寄せる

    
「中国の四大美女考」巻一
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京劇、”貴妃酔酒”

注:此の詩で飛燕に比した事が李白失脚の原因とされる

「清平調詞」 李白

其の一

雲想衣裳花想容   雲に衣裳を想い 花に容を想う
春風拂檻露華濃   春風檻を払って露華濃やかなり
若非羣玉山頭見   もし群玉山頭に見るにあらずんば
會向瑤臺月下逢   かならず瑶台月下に向かって逢わん

雲を見ては貴妃の衣装を想い、花を見ては艶やかな容色を想う。
春風が沈香亭の欄干を吹き渡って光る露の玉はしっとりと輝く。
西王母の住むという羣玉山の麓でも貴妃にお目に罹れ無ければ、
きっと月光の降り注ぐ瑤台で逢える人なのだろうか。

  「貴妃酔酒」は京劇の有名な出し物の一つである。楊貴妃が酒に酔って宦官高力士に絡む場面は見ものである。特に、西太后時代から名旦の家系を受け継いだ梅蘭芳の楊貴妃は絶品とされ、1956年の来日では日本人の大向こうを唸らせたと云う。