会稽山に囲まれた匂践に対する范蠡の献策は「美人の計」つまり、”越国内の美女と会稽の海で採れる美玉{真珠}を毎年、数多、呉王夫差に献上して夫差を骨抜きにする”というもので在ったという。此の時、送り込まれた十数人の美女の中に西施や鄭旦も混じっていたので在る。
  色好きの夫差は忽ち、西施等の眉姿に骨抜きにされ、彼女の為に宮殿館娃宮を枯蘇城外の霊厳山に建て、響履廊という西施の靴音が響く廊下を具えたと云う。此の時范蠡は、越に産する銘木、黒檀を200本送り、此の館娃宮建設を大規模にせざるを得ない様にした。また、北征や会盟の主催も西施等の甘言に、夫差は盲随して国力を費やし、遂には国を滅ばさ無ければ為らなかったと云われる。

   呉滅亡、都枯蘇炎上の中で”西施は、范蠡に救われて一葉舟で五胡に漕ぎ出し行方を知らず”と「呉越春秋」は語る。
   また、越を捨てた范蠡は斉に移り、鴟夷子皮と名乗って巨万の富を蓄え、幾年か経て陶に陶朱公という商人が居た。陶朱公は嘗ての范蠡で、彼の奥方は絶世の美人、夫婦仲は大変好かったと民間説話は語る。
   ”陶朱公が
范蠡で在る”と「史記」は述べるが、西施に纏わるお噺は正史には一切、記載が見付からない。

   西施は本名を施夷光と云い、春秋末期の公元前506年生まれと伝わる。中国では西子と呼ばれる。会稽郡諸曁県{現代の浙江省諸曁市}の出身で、父の生業は薪売りとも云われる。「薪売りの女」と古書に記されるので、日本では頭に薪をのせて街を歩く所謂、大原女で在るかの様な書かれ方をされるが、「女」は中国の古語では娘の意味である。苧蘿村に「施」と言う姓の家が東西二つの村に住んでいて、彼女は西側の村に住んでいたため、西村の施つまり、西施と呼ばれた。西施と鄭旦は同郷、幼馴染みで姉妹同然に育つが或る時、二人が池で水浴びをしている処を范蠡に見いだされ、妓女教育や巷間で男に対する媚態教育?を施され、後記するように戦に敗れた祖国を救う為、敵王に献じられたと民間伝承は語る。何事にも目立つ西施に対して、鄭旦は内気で無口、目立たない存在で在ったと云われる。


    春秋末の長江下流域の状況

   春秋時代当時、呉国と越国は敵対関係が強かった。中原に進出しようとする呉に取っては後ろを脅かされる。また、越に取っても呉は中原を窺うにも、楚を攻めるにも必ず、呉を倒すか、假道
{道を借りて通る}する必要が在った。越と呉の成り立ちは、司馬遷の「史記」によれば夏王朝第六代王の後帝小康の庶子無余が会稽郡に被封されたが、其の無余が越王朝の祖で代々会稽に都を営んだ。また、呉王朝は、周の古公亶父の長男太伯と次男虞仲が江南に建てた王朝である。
   斯くして、何代かを経て上記の如き事情によって、両国は何代にも渉る先祖伝来、不倶戴天の敵で在った。父を越との戦いで失った呉王夫差は、参謀伍子胥と兵法家孫武を得て富国強兵に務め、越王匂践を会稽山に包囲する。敗れた匂践は軍師范蠡の策を採用し、呉に徹底した従順策で臨んで国の存続を計る。匂践は夫差の下僕をまた、匂践の妻も夫差の后の下女を務めたとも云われる。呉王夫差は越の徹底した従順ぶりに気を許し、勝利に酔ったか?軍師伍子胥の諫言も聴かず、北方の雄、斉国を攻め、会盟に臨んでは大国晋と事を構えるなどの対外問題を起こし、最後には伍子胥を自刃に追い込むなど、失政を重ねる。更に都枯蘇に大宮殿館娃宮を建てて国力を費やし、駆け足で滅亡に迫る。
   黄池に会盟{諸侯を集めて周王への忠誠を誓う為の会盟に大軍を率いて参加する。此の留守を越王匂践に突かれて都は焼かれ、杭州湾に浮かぶ小島に流される時、”伍子胥に合わせる顔が無い”と言い残して自刃する。斯くして呉王朝は滅び”越王匂践は春秋末の覇者と為り、都を山東省の琅邪に遷都し中原に覇を唱えるので在る。其の後、覇を唱えた越国も、戦国の七雄の一国楚に滅ぼされて呉越の戦いは終焉を迎えるので在る。

「屁放き爺さん美女捜しのお噺」

巷の噂、美女西施大活躍???

「くノ一」西施の大活躍

  ”「西子」否、「西施」は敵国の王を誑かす為に送り込まれたくノ一だった”は西施を述べる定説で在る様で在る。筆者は「西施くノ一」説に異を唱える積もりはない。確かに民間伝承や「呉越春秋」には呉王夫差を誑かし、宮殿建設や黄池会盟の主催、晋や齊国等の大国に兵を出させて国力を浪費させ遂には、国を滅ぼさせる。「くノ一」としての彼女の働きは”凄い”と驚嘆するのみで在る。また、役目を終えた後は”五胡に遊ぶ”や”長江に棄てられる”という悲劇的な暗示が美女西施に付き纏う事も、上記副題の”二千五百年もの間、男共を魅了し続ける女”として中国史上最の美女として今尚、スケベ男共の憧れとして君臨し続けるのである。

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寝惚け旅巻一の2

ー二千五百年もの間否、今も尚男共を魅惑し続ける女ー

”その名は西子”巻2