「屁放き爺さん昔〜しのお噺」

ーシルクロードを東西に歩む「麺文化」ー

巻一の3

  二つの「シルクロード」を通って交易される文物は独り、中国に様々な文化的影響を与えただけでなく、ヨーロッパや中東の諸国にも大きな影響を及ぼして東西文化の出遇いに大きな役割を果たした。中国から持ち出されるシルクや錦、茶や陶磁器、玉石等の東洋の産品や文化はヨーロッパの王侯貴族や貴婦人、中近東のスルタンや彼のハレムに集められた美女達の身を飾り、ヨーロッパや中近東の王宮に居並ぶ高官や貴族、大商人達の生活習慣を変え、彼等の城や館の宝物室を飾ったのである。或る書によれば、古代ローマの市場には中国産のシナモンやジャワ島やマレー半島で採取される香辛料が並べられ、発掘された子供のミイラは絹の衣を身に纏っていたと云われる。古代ローマで通用していた金貨がインドのムンバイで発見されたともいう。

  "シルクロードの終着点は日本で在った”と東西交易は日本にまで続いていた事が好く話題に上る。此は、正倉院御物に西域を連想させる文物が数多く残されている事や奈良時代に限らず日本の文化は中国や西域からの渡来に負う事の多さに起因する。絲調も勿論、中国から伝えられたに違いない。しかし、某中国人研究家の研究によれば、此の権威ある古代史の常識が覆えされざるを得なく為りそうである。某研究家は唱える、”奈良時代の日本からの輸出品は錦や絹布等のシルク製品がメイン産品で在った”と。彼の論文「奈良時代のシルク国際流通状況」によれば、渤海や新羅等の当時の中国周辺諸国に中国も含めた諸国と日本のシルク輸入量と輸出量の全体比率は、一対二十六で圧倒的に日本から持ち出される事が多く、中国に限っても一対四で日本からシルク織物が輸出されたという。
  彼はまた言う。”日本から中国へ渡る海の道は「シルクロード」で、中国から日本への海路は「ブックロード」で在る”と。
  此の辺りのお話は「シルクロードの旅」後編を御覧頂きたい。

”シルクロード一万キロの旅行く”第3篇

  此処に記した麺食の習慣や陶磁器は、東西の文化交流のほんの一例であるが、「シルクロード」は途方も無く長い歴史を持ち、沿線各地に棲む何億という人々に多種多様な文化を伝達し、世界を一つに結ぶ交易路で在った。又、其の役割は今日でも尚更、今後も此の交易路の沿線の各地域に棲まう人々のみに限らず、世界の人々の文化を結ぶ役割を担う事に為るのである。
  斯くして沙漠と海という二つのメインロード更に、其れ以外の東西交易路をも含めた「シルクロード」と呼ばれる大交易路が、東西文明の出遇いと融合に果たした役割の重要性と功績の大きさは今尚、人々に憧れと夢を与え、多くの研究者や考古学者、探検家や素人の旅人を群がり集め、各国のマスコミカメラを呼び寄せては新たな学説や多くの発見を、世界の人々に提供し続けるに違いない。

  今から九千年以前、西アジアで栽培が開始された小麦が「シルクロード」を通じて中国に伝えられて黄河流域に麺文化?を生み出す。此の中国で生まれた麺を食う習慣は、シルクロードを逆に流れてアジアのみか?世界各国の人々の腹を満たす食文化と為って今に至るのである。
  中央アジアのソグト人の国{現在のウズベキスタン}では「ラグマン」と呼ばれる麺料理を生み、朝鮮半島では「カルククス」や「ネンション」と云う麺が食われた。マルコポーロによって伝えられた?と云えられる「マカロニ」や「スパゲッテイ」、「ラザーニャ」等の麺料理は今日でもイタリア半島の人々の胃袋を満して居る。
  日本にも遣唐使によって伝えられたという「饂飩」や「蕎麦」がある。面白い事に最近、日本製の麺「ラーメン」が中国に逆輸出され、即席麺としてお湯をかける拉麺として、汽車で食われ、大都会では「拉麺」の看板やネオンが街を彩る。或る拉麺屋さんにはコロッケも売られていて"若者に大いに好評だ”と
店主は威張る。

  「海のシルクロード」は又、「陶磁器ロード」とも呼ばれた。此の大海原を渡る船に満載された東洋の陶磁器の逸品がヨーロッパに運ばれ、当時の王侯貴族や其の婦人達を魅了するのである。日本の色鮮やかに彩色を施された「有田焼」も彼等の宝物室を飾るに相応しい芸術作品で在った。「陶磁器ロード」を通じて運ばれた中国景徳鎮で焼かれた白磁や青磁、薄(はく)胎(たい)は彼等を驚かせた。今から三百年程昔、当時多くの公国に分裂していたドイツ帝国の一国、ザクセン王国のアウグスト王はドレスデン郊外のマイセン地方で天才陶磁器職人のベトガーを使(し)て、景徳鎮の白磁や日本の「柿右衛門」を真似た磁器の焼き上げを成功させる。ベドガーは陶土高嶺と石灰の最適混合割合を見付け出して此の功績を得るのである。今日でも、"高級ブランド磁器”として其の白地の洗練された色合いや絵付け模様を愛する多くのファンを世界中に持つ「マイセン磁器」の誕生である。

ー「柿右衛門」とマイセン白磁ー

「シルクロードとブックロード」篇へのお誘い

”シルクロードとブックロード”
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