或る美王女の遺骨の発見に想ふ
「屁放き爺さん美女を訪ねる旅」
1990年、古代地中海の港町として栄えた、エフェソス遺跡で見付かったとされるアルシノエ4世の遺骨を繞るテレビ特集番組を見て「色即是空」という一句を思い、上に述べた憤りを虚しさの想いの中に覚えた。
港町エフェソスの大通りに面して、アルシノエ4世の墓所で在るとされる八角堂で遺骨が発見された。彼女は、有名なクレオパトラ7世の妹で、王国の支配を繞る姉弟の戦いに巻き込まれて暗殺されたアルシノエ4世その人の遺骨で在るという。
二千年もの長き時間を此処に眠って居たという事を知って、歴史好きの筆者は小躍りしてNHKのハイビジョン放送に釘付けされたので在る。
アルシノエ四世は、エジプト王プトレマイオス12世とエジプト女性の間に生まれ、母をギリシャ人のクレオパトラ5世として生まれたクレオパトラ七世の異母妹で在った。
クレオパトラ7世は添付した画の呟く如く、絨毯に包まれてローマの将軍ユリウス カエサルの寝所に現れ忽ち、老将軍を魅了して彼の愛人と為り、カエサルの持つ軍事力を後ろ盾に、エジプトの覇権を繞って弟たちつまり、彼女の共同統治者で在る夫達との戦いに勝ち、エジプト王国支配という権力を掌中にするので在る。
巻二の2
ークレオパトラ女王の華麗なる戦いー
古今東西、何故斯くも権力や愛、冨をめぐる陰惨な、哀しい戦いが繰り返され、陰謀の犠牲となった沢山の人々が死に、或る人は冤罪を蒙って流罪に処され、或る人は流刑地に赴く途中で斬殺されたので在ろうか?哀しい言い伝えや多くの悲劇が繰り返されるので在ろうか???
他人よりも少しでも多くのものを得んとする冨と名誉への欲望?他人より少しでも上位に佇ちたいと云う権力に対する欲望等々、様々な人間の哀しい性が織りなした出来事が歴史の各時代の場面を彩るので在ろうか??此処に述べるクレオパトラ7世女王陛下のお話も、その様なお噺の一コマで在る。
筆者按:「絨毯に包まれたクレオパトラ」:古代エジプトでは、贈り物や賄賂として宝物を絨毯に包む習慣があり、クレオパトラは宝物の代わりに”自らの身体を贈る事でカエサルの味方を得た”とされる。ローマの英雄を色仕掛けで籠絡した美女クレオパトラは男の弱みに精通して居たのかも知れない。
日本の江戸時代、田沼意次に「越前竹人形」と称して美女を献上した話や、呉王夫差に贈られた西施等々、古今東西「美人の計」に纏わるお噺は数え切れない。「英雄色を好む」で在り、「美女英雄を弄ぶ」である。
王国の全財産と王国を統治する権益を持つ長女は第一王妃に即位し、王は彼女の持つ権利を借りてファラオとして国を治めた。第一王女は結婚して第一王妃と為ってファラオと共に国を治める。共同統治を行ったので在る。此の風習によって古代エジプトでは兄妹或いは、姉弟の間の結婚が常に行われ、稀に父娘婚や母子婚も記録に残る。此については次の頁に詳しく述べる。
クレオパトラ七世の最初と2番目の、二人の夫は弟で在った。エジプト支配をめぐる弟との戦争にカエサルの助力を得て勝利し、エジプト王国を掌中にした彼女はカエサルと結婚してローマを手に入れて地中海全域を得ようとする。此のエジプトの結婚の原則つまり、「夫と妻は財産や権力を共有する」という習慣は、"ローマの諸権利はエジプト女王に帰属するかも知れない”という怖れを抱いた元老院議員のブルータス等によってカエサルは暗殺され、後にカエサルの甥オクタビアヌスによってエジプト王国は滅ぼされ、ナイルの賜物と詠われた沃土を掌中にしたローマ帝国は地中海の全域に君臨する事に為るので在る。
アルシノエ4世は、姉弟間に起こったエジプト支配を繞る争いで反ローマ陣営に組みし、「ナイルの戦い」に敗れてカエサルに命を救われてエフェソスのアルテミス神殿に幽閉される。カエサルの被暗殺の後、地中海の東部を支配したローマ軍の将軍アントニウスの放った暗殺の刃の下に、十四年という短い一生を終えるので在る。クレオパトラの色香に腑抜けにされたアントニーは、権力を守ろうとするクレオパトラの懇願に抗しきれず、アルテミス神殿で神に奉仕するだけの毎日を送るアルシノエを暗殺する。
姉弟、姉妹の戦いで勝者と為ったクレオパトラ7世、ローマの将軍達を、其の美貌と多国語を駆使する甘い声音とエジプト女王という異国情緒に満ちた自信溢れる容姿で魅了して彼等を掌に弄び、彼等の軍事力を背景に、妹アルシノエ四世や弟で彼女の夫プトレマイオス13世、14世を葬って王国の支配と一時の栄華を謳ったクレオパトラ女王も結局は、ローマの支配を繞るオクタビアヌスと彼女の夫アントニーの最終決戦、アクテイウムの海戦で敗軍の女王と為ってアレクサンドリアに逃げ帰る。そして、ローマの将軍二人に吸わせたであろう豊満な乳房を、イチジクに潜ませた毒蛇に吸わせて自らの命を絶つので在る。此処に、栄光あるエジプト王国と、アレクサンドロス大王の将軍としてこの地を支配したプトレマイオス王朝の幕を下ろす事に為るのである。
近親との紛争を制し、エジプト王国の女王として君臨したクレオパトラ7世も、エジプトの持つ特殊な遺産相続の風習「第一王女相続」の犠牲者で在った”とも言えなくは無い。
古代エジプトでは第一王女{長女}相続が行われ、親の持つ財産や権力は全て、第一王女に受け継がれた。
絨毯の中身は美女だった
クレオパトラ7世胸像